危急時遺言のメリット・デメリット ~葛飾区の元ケアマネ行政書士の考察~
危急時遺言は、「もう時間がない」――そんなときに遺せる、最後の選択肢です。
しかし、公正証書遺言や自筆証書遺言に比べて、法的な完成度や実現性には大きな差があります。
このページでは、危急時遺言のメリットとデメリットを、行政書士の視点から分かりやすく解説します。
危急時遺言の「完成度」の目安
弊所では実務経験上このように感じています
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公正証書遺言:完成度 99%
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自筆証書遺言:完成度 60〜80%
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危急時遺言 :完成度 10〜60%
残念ながら、必ずしも有効な遺言書ではありません
※あくまで実務上の目安であり、作成状況や証拠の整い方によって上下します。
✅ メリット(良い点)
1. 時間がない状況でも遺言を残せる
危急時遺言は、公証人が間に合わないときでも「その場で」遺言を残せる唯一の方法です。
公正証書遺言の場合は、公証役場との日程調整や必要書類の準備に数日〜数週間かかることもあります。
一方で危急時遺言は、証人の手配さえ整えば、当日中に現場で作成できる場合もあります。
ご本人の体調が急変する前に、少しでも早くご意思を残すためのスピード対応が可能です。
2. 証人3人の立ち会いで、一定の客観性が保たれる
遺言には証人3人以上が必要なため、本人の意思を立証しやすくなります。
録音や動画で補強することも有効です。
3. 【視覚・聴覚に障がいがある場合や、自筆できない場合でも対応可能】
危急時遺言は、口頭による意思表示が可能であれば作成できるため、
・目が見えにくい
・耳が遠い
・字が書けない
といった方でも、ご本人の言葉と証人の記録で遺言として残すことができます。
「書けないからもう無理」と諦める前に、一度ご相談いただければと思います。
✅ デメリット(注意点)
1. 完成度が低く、無効となる可能性がある
証人が不適格だった、申述が間に合わなかった、意思能力がなかったなどの理由で、遺言自体が無効になることも。
慎重な記録・証拠確保が必要です。
2. 形式不備や混乱が起きやすい
緊急性の高い現場では、遺言書の作成内容の不備、証人の手配が困難、録音などが不十分になりがちです。
そのため、あとからトラブルの火種になる可能性もあります。
3. 費用や労力のわりに法的な効果が不安定
弊所では危急時遺言の一式サポートを33万円(税込)で承っていますが、費用と労力に対して、確実な効果が得られるとは限りません。
✅危急時遺言のリアル 〜実際に多い「間に合わなかった」ケースとは〜
「自筆証書遺言を書くこともできない」「公正証書での作成にはもう間に合わない」――
そんな切迫した状況で行われるのが、危急時遺言です。
ご本人が病床に伏し、体力も気力も限界に近い状態で、「今、この瞬間しかない」という場面で遺言を残すための手段ですが、現実はとても過酷です。
元気なときには「そんなことあるわけない」と思っていた方でも、いざというときには想像を超える体調不良に見舞われています。
リスク① 危急時遺言が「成立しない」ことがある
まず、危急時遺言には本人確認が不可欠です。
ご自身の氏名・生年月日・住所などを、明確に口頭で伝えられることが求められます。
しかし実際には――
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耳が遠く、会話のキャッチボールが困難
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意識がもうろうとし、質問の意味を理解できない
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強い薬の影響で混乱してしまう
こうした状態の方も少なくありません。
このような場合、たとえご本人が「遺言を残したい」と思っていても、法的に有効な遺言とは認められないのです。
危急時遺言にも、通常の遺言と同じく「意思能力」が必要だからです。
リスク② 内容が伝えられない・正確に伝わらない
たとえ名前や住所を伝えられても、遺言の内容そのものを正しく口述できないこともあります。
たとえば――
「すべての財産を姪の○○にあげたい」
この程度のシンプルな内容ですら、口に出すのがつらいことがあります。
実際の現場では:
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「姪」を「娘」と言い間違えてしまう
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名前を思い出せず、間違った呼び方をしてしまう
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全ての財産を姪の(名前)にあげたい この程度の ごく簡単な内容の遺言を 口頭で言うのも難しい
そんな状態で臨むのが、危急時遺言の現実です。
✅ 危急時遺言 当日に必要なもの【チェックリスト】
以下の準備が整っていると、スムーズに作成が可能です。
準備が難しい場合も、できる範囲でご相談ください。
👤 ご本人(遺言者)に関するもの
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□ マイナンバーカード、または運転免許証・健康保険証などの本人確認書類
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□ 遺言に記載したい内容のメモ(例:誰に何を渡したいか など)※口頭でも可能
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□ 意思表示ができる状態であること(話せる・うなずけるだけでは難しい 口述を筆記するのが条件である為)
🧑⚖️ 証人3名に関するもの
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□ 証人として同席できる人 3名(未成年や推定相続人、受遺者は不可)
※当事務所で専門家証人(行政書士等)を手配することが可能です -
□ 各証人の本人確認書類(免許証・保険証・マイナンバーカード等)と、住民票
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□ 証人の署名・押印ができる準備(印鑑など)
🗂 書類関係
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□ 遺言内容に関する資料(例:不動産の登記事項証明書、通帳の写し など)
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□ 申述に備えた戸籍謄本など(※後日の提出でOK)
📷 記録補強用(推奨)
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□ スマートフォンやボイスレコーダー(録音・録画が可能なもの)
※ご本人の意思表示の状況を記録しておくと、後日のトラブル防止になります
⚠ ご注意
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作成後は20日以内に家庭裁判所で「遺言の申述」が必要です。
→ 弊所で代行申請いたします(33万円の料金に含まれています) -
状況によっては、医師の診断書や立ち会いが必要になる場合があります。
→ 入院先の協力も重要です。事前に病院に連絡しておきましょう。
✅ まとめ
公正証書遺言を事前に作成しておくことが、
ご自身にとっても、ご家族にとっても「もっとも安心で確実な選択」です。
遺言がないままお亡くなりになると、
「誰が手続きをするのか」「どう分けるのか」――
残されたご家族が、戸惑い、時に争うことさえあります。
もちろん、間に合わない時もあります。
そんなときは、緊急時に作成する危急時遺言という方法もあります。
それでも、「ゼロよりはまし」。
でも、できるなら今のうちに――
元気なうちに、落ち着いた気持ちで、
「自分の想い」をしっかり遺す準備をしておきませんか?
